各種意見への反論

無防備地域宣言運動を推進する団体のWebサイトや、議会での発言内容に、(法律的な瑕疵以外の)矛盾をはらんだ主張が7点ありますので、それらの主張を以下に掲載し、反論させていただきます。

  1. 「無防備だと平和が実現する」という主張


    【反論】

    2004年のハイチ共和国での事件を紹介します。

    2004年2月5日「ハイチ解放再建革命戦線」が北部の町ゴナイブで蜂起しました。ハイチでは1994年以降に国軍の解体が進められていたこともあり、反政府武装勢力に対し、政府側は武力で十分な鎮圧をすることは出来ませんでした。

    挙句の果てにはアメリカ合衆国の介入を許し、この争乱の中で略奪や殺人が横行し、住民が多数の被害を受けました。

    この事例が示しているとおり、無防備だからといって平和が実現できるとは限りません。

  2. 憲法を改正することは憲法違反であるという主張(改憲を論じることが、憲法を尊重していない態度であるかのような主張)

    【反論】

    確かに、日本国憲法第99条に
    「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」
    とありますが、一方、日本国憲法96条には
    「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」
    とあります。

    よって、憲法を改正することは、憲法96条に書かれてあるとおり、憲法上規定された普通の手続きであるといえるので、憲法を改正することは憲法違反という主張は誤りといえます。

  3. 国が無防備地域宣言をしないから、市に条例の制定を求めているのだという主張

    【反論】

    これは、国民保護法に対する批判を市議会で行うのと同じように、警察にどれだけ通報しても違法駐車がなくならないからと、消防署に電話をするようなもので、お門違いといえます(ちなみに、国民保護法の管轄は市ではなく、国です)。

  4. 第二次世界大戦において、沖縄の前島は無防備状態にあったから、戦火を免れたという主張

    【反論】

    沖縄の前島のことを「前島は無防備状態にあったから、戦火を免れた」事例のように、無防備地域宣言を推進する団体のHPなどでは紹介されています。しかし、前島が戦火を免れたのは、日本軍にとっては地理的に特徴が無く、作戦上重要な拠点でなかったため軍が立ち入らなかったという面と、侵略側である米軍にとってどうしても制圧必要な島とは言えなかったからという側面もあります。以下の地図を見てください。

    前島の位置

    前島は沖縄本島の西に位置する、渡嘉敷諸島の一つの島です。このように、前島の周りにはいくつかの島が存在します。前島の周りにある座間味島や、渡嘉敷島などでは、沖縄戦の時には日本兵が上陸し、住民も含めて多数の死者が出ています。

    上記の地図にあるように、前島の周りの座間味・渡嘉敷などは、環状になっています。この環状の島の山は高く、軍艦を隠して停泊させるのに適しているわけです。よって、この座間味・渡嘉敷などの島は日本軍にとっての重要拠点であり、その理由で戦場となったのです。

    また、米軍にとっては、来るべき沖縄本島での決戦に備えて、沖縄本島を砲撃するために砲兵陣地が必要でした。当時、米軍が主に、野戦重砲として使用していた「ロングトム」は射程 23,000m です。ちなみに、神山島から本島までは、10,000m です。

    つまり、日本軍・米軍にとって、地理的にさほど重要視する島ではなかったので戦火を免れたというのが、より一般的な解釈だと思われます。

    ※ 2005-08-31 追加

    >「もし日本軍が駐留していた場合、米軍は攻撃をしていた可能性が高い」という
    > ロジックに対して反論できていません。

    という内容のご指摘がありました。この点についてお答えします。

    結論から言えば、この主張はありえない前提のもとに成り立っているため、反論のしようがありません。

    当時の日本軍は、作戦上重要な拠点となる島を選別し駐留していました。 前述のように、前島は日本軍にとって作戦上重要な拠点ではありませんでした。 つまり、前島に日本軍が駐留する余地はなかったと考えられます。

    前島に日本軍が駐留しているという状況はありえないのです。

    つまり、「もし日本軍が駐留していた場合、米軍は攻撃をしていた可能性が高い」という主張は、日本軍が前島に駐留しているという、ありえない前提のもとに成り立っているのです。そのため反論のしようがありません。

  5. 第二次世界大戦において、パリは無防備地域宣言をしたことによって、戦火を免れたという主張

    【反論】

    当時、フランス政府はドイツに追い詰められた上に、イタリアに宣戦布告されるということも後押しし、パリを捨てトゥール、後にボルドーと逃れていきました。パリは事実上の無政府状態にあったわけです。そして、フランス政府はパリを捨てた翌日に、パリを戦火から救うために、無防備宣言をしました。

    その無防備地域宣言の2日後、ドイツ軍がパリに入城しましたが、ヒトラーはパリに入る際、兵士に略奪行為などを厳禁し、解放者として振舞うように求めたようです。これは他の国々に対して、ドイツのイメージアップを狙ってのことです。

    ヒトラーは占領の数日後に、パリの視察を行っております。パリを訪れたヒトラーはオペラ座を視察、エッフェル塔を見物し、廃兵院のナポレオンの墓に詣でます。そして、ヒトラーはウィーンに置かれていたナポレオンの息子ライヒシュタット公の棺を父の傍らに移すよう命じたほどです。

    以上のように、ヒトラーはパリを神聖視していたと考えられます。そういった「パリに対するドイツ軍の想い・ヒトラーのイメージ戦略」と「戦略上の拠点とするためにパリを保護した」といった要因が重なり合って、パリは戦火に巻き込まれることがなかったのです。

    以上、歴史的背景や当時の状況からして、無防備地域宣言をしたことが戦火を免れた大きな要因になったとは考えられにくく、さらに、当時、パリは無政府状態にあったため、無政府状態とは言えない状態での無防備地域宣言を謳う、数々の条例案との比較材料にするには無理があります。

  6. 2000年の地方分権一括法制定、地方自治法大改正によって、地方は独自に「無防備地域宣言条例」を定められるようになったという主張

    【反論】

    確かに現在、2000年の地方分権一括法制定、地方自治法大改正をうけて、国の事務を可能な限り制約し、住民にとって身近な問題は可能な限り地方自治体の役割とする流れにあります。だからといって、国防が地方自治体マターになる訳がありません。また、地方独自の個性的な行政施策を展開することと、国の法律に抵触する条例を制定することが同列に語られることに、違和感を禁じえません。つまり、この主張では「地方分権」の解釈の仕方が明らかにおかしいといえます。

  7. 神戸市の「非核神戸方式」を引き合いに出し、「無防備地域宣言条例」は制定できるとする主張

    【反論】

    神戸市の「非核神戸方式」には、明文の規定がなく、法的に言えば行政指導的なもので、法律的に有効なものとは到底言えず、無防備地域宣言条例案との比較材料にするには無理があります。

  8. 大和市自治基本条例を引き合いに出し、国による公式見解にとらわれず、地方自治体が独自の解釈をすることによって、地方自治体が無防備地域宣言をする主体になりうるとする主張 ※新(2006/04/13)

    【反論】

    神奈川県大和市は自治基本条例において、第6条で「法令の自主解釈」を定め、国の見解に頼ることなく地方自治の主旨に即した解釈と運用を行うとし、第29条で「米軍厚木基地の移転」を設け、一部「国防政策」に踏み込んだ条例を制定しています。

    <参考:大和市自治基本条例>

     (法令の自主解釈) 第6条 市は、地方自治の本旨及び自治の基本理念にのっとり、自主的に法令の解釈及び運用を行うことを原則とする。
     (厚木基地) 第29条 市長及び市議会は、市民の安全及び安心並びに快適な生活を守るため、厚木基地の移転が実現するよう努めるものとする。 2 市長及び市議会は、国や他の自治体と連携して、厚木基地に起因して生ずる航空機騒音等の問題解決に努めなければならない。

    このことを根拠に「無防備地域宣言をめざす大津市民の会」は、無防備地域宣言に関しても、大和市の自治基本条例と同様に、可能であると主張しています。
    しかし、団体の条例制定権は、その固有の自治権に由来するものではなく、憲法94条によって、国家から伝来されたものです。 同条は、地方公共団体に条例の制定権を認めて、住民自治及び団体自治という地方自治の本旨(92条)の充実を図る一方、条例制定権の範囲を「法律の範囲内」と限定して、国家主権の統一性との調和を図っています。 当然、専属的事務である外交や国防に関する事項について条例を制定することは許されないのです。

    つまり、大和市の制定した条例は無効であり、効力の点からも条例は法律よりも下位にあります。 当然、裁判になった場合には法律が優先され、効力を有しません。 また、条例は命令よりもさらに下位にあるため、実際の戦闘状態になった場合等に国からの命令があった場合には、条例を制定していても、国の命令に従うほかないのです。

    (憲法>法律>命令>条例)

    つまり、当サイトの2-1-1「憲法で定められている現行の法律に抵触するため、無防備地域宣言は条例案を制定することができない」で詳述したとおり、 大和市の自治基本条例の第6条や第29条は「制定されてはいるが実効性がない」という状態であり、当然、この事例に倣って無防備地域宣言を条例化しても、実効性はありません。